人気ブログランキング | 話題のタグを見る

sachiolin.exblog.jp

わたしの心の風景メモ。 


by sachiolin
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

忘れられない人。

4泊5日の怒涛のイタリアフランス旅行から
雨にも負けずスリにも遭わず
親子三人、何とか無事にドイツに戻ってきた。

フィレンツェ、ローマ、パリ。
とてもとても4泊5日だったとは思えない。
1週間以上は留守にしていた気がする。
毎日毎晩へとへとになるまで歩きまわって
ベットに倒れこんだ。
よく歩いたこと。よく見たこと。
ホンモノはやっぱりすごい。
頭も心もいっぱいいっぱい。




今日パリの駅で母親がふと口にした。
「ここは…フランスだっけ?パリだっけ?」

初めてヨーロッパに来た母親にとっては、
それはそれはめくるめく大冒険だったに違いない。
いろんなことにびっくりしたり、感激したり、喜んだり、
心を痛めたり、びくびくしたり。疲れたね。おつかれさま。

「やっぱり日本がいいなぁ。日本は情緒があっていいなぁ。
 さっちゃん、よくこっちで生活してるねぇ。よくがんばってるねぇ。」

がたんごとんと揺れる電車の窓から見える
夕暮れに美しく染まる広大な景色に目を向けて
丸い背中で語ってる。疲れたね。おつかれさま。



家族という存在について、
自分と他との関係について、
思いやりについて、
本当の優しさについて。

色々考えた5日間だった。

家族って温かい。
家族って難しい。
家族って貴い。
家族って近くて遠くて近い。




旅は人との出会いがつきもの。
人と話すのが大好きな三人。
今回も電車の中で、行列の中で、
いろんな人と出会ってお話した。

忘れられない人がいる。
忘れられない出来事がある。

これを書いておきたくて、
眠い目をこすりながら
この日記を書いている。

思いやりは何か?という問いを
ずっと考えることになった今回の旅も、
今思えばあの人のことがきっかけだった。
大事なきっかけだった。


1日目。早朝の飛行機に乗るために
早朝のバスに乗って空港に向かっていた。

時刻通り順調に走っていたのだが、
あるバス停で、その出来事は起きた。
ある男性が喚きながら乗り込んできた。

「あーお金はないさ!金なんて一銭も持ってない!!!
 でも俺はバスに乗る。乗ってやるぜ。
 どうせ警察を呼ぶんだろ?! 呼べばいいさ!!
 呼べよ今すぐ!どうしたんだよ!!呼べよ警察!
 俺は何も怖くないぜ!」

どうもイタリア人らしい。イタリア語を混ぜながら、
片言のドイツ語で怒鳴り散らす。
運転手が降りろと言っても言う事を全く聞かない。
仕方なく運転手が、警察に電話をしかけた瞬間に、
私のすぐ後ろにいた座席の人が、すっと入口に駆け寄った。
再び何事もなかったのようにバスが走り出した。

その人は、彼の分の運賃を払ってあげたのだった。

私ときたら、
「怖いなぁ。この人に近寄らないようにしなくちゃ。
困ったなぁ。警察が来るまで待っていたら
随分遅れるなぁ。飛行機間に合うかしら・・・。」
と、そんなことしか考えなかった。
自分のことしか考えなかった。
第一、自分で彼の分を払えばよいのだということに
気付かなかったし、そういう考えすら浮かばなかった。

だから余計に、その人のとった行動は、私にとって
青天の霹靂のごとく、驚きでありショックだった。

勿論その人も、急いでいたのかもしれないし、
時間がかかったら困るから払ったのかもしれない。
それでも、彼のその行動はあまりに自然で、
あまりに鮮やかで、私の心を優しく温かくした。
周りにいた人の心を優しく温かくした。

何よりも、喚いていた男性の心を優しく温かくした。

眉間に皺を深く寄せ、手は傷だらけで真っ黒で、
服はぼろぼろで、怒鳴り散らしていた彼が、
「ありがとう!ありがとう!!」と何度もお礼を言った。
目を輝かせ笑顔で外の眺めを見ながら鼻歌を歌った。

「帰りの切符代もいる??大丈夫?帰れるの?」と、
その人は、優しく話しかけた。

きっと毎日冷たい視線を浴びながら、
世間の冷たい荒波の中で過ごす
彼の孤独な心に温かな炎が灯ったようだった。

私は何だか涙が出そうになった。


突然暗く鋭く立ちこめたその場の雰囲気が、
その人のさりげない優しい行動によって、
全てが丸く温かくなった。何だかみんな笑顔になった。

「ありがとうありがとう!よい一日を!」と
私たちに握手を求めて、彼はバスを降りた。


彼にとっても私にとっても忘れられない一日。

ありがとう。




今日の言葉*
「エネルギーは、中途半端に使うと、かえって疲れる。
 使い切ると、また、湧いてくる。
 私は、一日単位で生きている。今日が充実すれば、
 明日にはそれが、満足した過去になり人生を形どっていく。
 納得のいく、ギッチリした過去だったら、絶対に未来はいいに決まっている。」
南研子


忘れられない人。_c0110074_1015489.jpg

by sachiolin | 2009-05-08 10:07 | 思〇