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わたしの心の風景メモ。 


by sachiolin
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神経まであと2ミリ。

今日はちょっと怖いお話。

4月に大きな試験が終わってから
何となく頭が重い日が続いたが
きっと疲れが出たのだろうと
ゆっくり休むようにするだけだった。

急に目が悪くなったり
耳が痛かったり
頭が重かったりした。
考えてみると、全て右側だけだった。
右目に右耳に右の頭。
継続的ではあったにせよ、
痛みは耐えられないほどのものではなく、
鈍いものだったので、あまり気にしなかった。

今思い返すと、
たった一度だけ、何か冷たいものを
飲んだ時に、まさに脳天を突き抜けるような
非常に鋭い痛みが走ったが、一過性のもの
だったので、そのままにしてしまった。


痛みを感じ出してから、ほぼ2週間。
なかなか痛みは消えてくれない。
寧ろ悪くなってきている気がする。

「やっぱりこれはおかしいゾ」と感じて
重い腰をやっと上げて村の歯医者さんに赴いた。

普段はできるだけ日本で治療しているので
この歯医者さんは、凡そ2年ぶりだ。
予約なしに駆け付けたがが、痛みがひどいから
今日何とか診て欲しいと頼んだら、それほど
待たずに入れてもらえた。

※ちなみに、ドイツの病院は基本的に完全予約制。 
 また、Hausarzt、つまり主治医を持っているのが
 一般的で、必要によって、専門医を紹介される。
 何年か前までは、保険でほぼ全治療費が賄われていたが、
 現在は10ユーロがかかり、この代金は、3ヶ月間有効。
 ただ3か月といっても、1~3月、4~6月、7~9月、10~12月と、
 1年を4等分したもので、例えば3月31日に治療したら
 4月1日には又10ユーロ払わなければならない。
 (この制度導入当初は、どこも混乱気味で、
 病院の受付でも患者と病院側が揉める光景をよくみた。)
 ただし、その3か月内に、一度10ユーロを払えば、
 その支払証明書が、どの病院でも有効になる。
 歯が悪くなって、次に目が痛い…となっても、
 10ユーロで済むわけだ。私は結果的に今回は歯医者を
 3件もハシゴしたのだが、勿論10ユーロでだった。
 
 
さて。
名前を呼ばれてレントゲン室に行き、写真を撮影。
できあがった写真を見たドクターの顔色が変わった。

「うーん。これはまずい。
 以前治療した歯の内部で、虫歯が悪化して
 顎の骨の方まで腫れ上がっています。
 今の状態では、麻酔の注射を打っても
 治療は危険です。まずは薬を飲んで
 腫れを鎮めてからにしましょう。
 治療の三日前から飲みだしてください。」

思わず絶句している私。

「え。そんなひどい事になってしまっているのですか??」

「そうですよ。あなた、2年も来なかったでしょう。
 この歯はちょうど2年前に治療した歯です。
 もっと定期的に検査しないとだめですよ。
 神経を抜いてしまっていたから、これほど 
 ひどくなっているとは気づかなかったのでしょうね。
 
あまりの事にショックを受ける私。
先生の方針に従って、三日前から薬を飲みだすとなると、
治療を受けられるのは、最短でも木曜日。
運悪く木曜日は休日。そして金曜日は定休日。
結果的に、月曜日に予約になってしまった。

呆然としながら、処方箋をもらい薬局で薬を買う。
Isocillinというペニシリン系の薬だ。

「このまま1週間も放置しておくなんて危険だ。」
と、直感した。
病院に戻り、悪化してしまう事はないのか、
悪化してしまったらどうするのか、
何とかもう少し早めに治療はできないのかと
質問したが、兎に角薬を飲んでもらわない事には
何も始まらないの一点張り。

これはまずいと、本能的に感じた。

日本人の歯医者さんのことを
随分昔に話していた知り合いに慌てて連絡。
電話番号を聞き、早速電話をする。
金曜日と言われたが、無理やり次の日に
捩じ込んでもらった。

マインツの近くまで電車で約3時間。

不安で一杯になっている私に、
受付の人が、問診表を手渡す。
一目見て、驚いた。日本語だ。
ドイツに来て、初めて日本語でこういうものを書いている
という事そのものに、感動すら覚えてしまう。
書き途中で、日本人の先生が通りかかる。
ちらっとこちらを見て、にこっと笑い
「こんにちは。」と言い合う。

ひと目で、優しい笑顔先生だなと思った。
少し不安が解けていく感じがした。

治療室に呼ばれる。
レントゲン写真をじっと見てから
なるほどなるほどと小さく呟いて、こちらを向いた。

「あなたの場合はこういうことです。
 この歯の根っこの部分見えますか?
 根の周りが黒い影になっていますね。
 これは、何ていうのか、膿のようなものです。
 で、この下を通っている細い線見えますよね?
 これが神経。
 この悪化して腫れあがったものが、
 神経までかなり近づいてしまっています。
 そうですね、これだと…神経まであと2ミリくらいです。
 これははっきり言って危険な状態です。」

なるほど、黒い影がはっきりと見える。
寒気がぞくぞくっとする。
神経と黒い影は、もう少しでくっつきそうだ。
 
「こういう内部で広がってしまった虫歯というのは、
 外見は全然変わらないので非常に分かり難い。
 ましてや、神経を抜いてしまっている歯ですからね。
 残念ながら、この歯は、抜く以外に道はありません。」

治療でどうにかなると思っていた私は、
「抜く」という言葉を聞いて、
わなわなと全身の力が抜けていった。

「それでですね、勿論私が抜く事も出来るのですが、
 万が一、この膿の袋が、すこしでも神経に
 貼りついてしまっているような場合、抜いた拍子に、
 神経を傷つけてしまう可能性があるわけです。
 これは絶対に避けたい。一生のことですからね。
 ですので、念のため、口腔外科のお医者さんを
 紹介しますので今からそちらに行ってください。
 無理にでも今日やってもらうように頼んでみますからね。
 傷口を縫うかもしれないですが、抜糸も勿論その先生の
 所でやってもらってくださいね」

ショックを隠しきれない私に、先生も気づいたようで、

「いや、でもまだ今でよかったですよ。今だからよかった。
 あともう少し遅かったら、本当に危険でした。」

本当にそうだ。不幸中の幸いである。

何度もお礼を言って次の歯医者さんへ向かう。
道すがら、いろんなことを思った。
今まで、歯医者に行かなかった自分を責めたり、
今まで一緒に人生を共にしてきたこの歯を
抜いてしまうのかと思うと、悲しくなったり
親に申し訳ないなぁと思ったり。
とはいっても、抜かないと、神経が麻痺してしまうし。
ヴァイオリンどころの騒ぎじゃない。
これは一生の問題だ。一生が懸かってるんだよ、お前さん。

私の人生は、今までも、いつもぎりぎりだったけど
「神経まであと2ミリ」だなんて、いくら何でも
ぎりぎり過ぎるよなぁ。今までいろんな事があったけど
ぎりぎり断トツナンバーワンだよなぁ。


昨日から数えて3件目の歯医者さん。

新装したのか、明るく近代的な病院内。
問診表を渡される。
今度はドイツ語。
見たことのない単語がずらりと並ぶ。
仕方ないから一語一句辞書を引く。
やはり病期のときは、日本が安心だなぁと感じる。

金髪で、目が優しいけど、筋肉質な先生。
ハローと握手をする(ドイツは病院で握手が多い。)
マシュマロのような柔らかい手。
チェロなぞ弾いたら絶対いい音するに違いない。
この手で何本の歯を抜いてきたのだろう。

「これに、サインしてください。」

と渡されたのは、抜歯了解の文書だった。
何も言われず勝手に歯を抜かれたというのは、
ドイツでよく聞く話なので、この先生は
そういう所はきちんとしているのだナと思った。

しかし、考えてみれば、
今回も、母国語で丁寧な説明を受けたから
抜歯に関しても、辛かったが納得ができた。
あのままドイツ人の歯医者さんにかかっていたら
納得もいかなかっただろうし、一生後悔していただろうな
と思うと、やはりはるばる赴いて本当によかった。

麻酔の注射が十分に効いたら
治療はすぐに始まった。
慣れた手つきで淡々と仕事を進めていく。
写真から判断したのか、触って分かったのか、
「歯を半分に割りますね」と一言。
グイーンとぐるぐる高速回転するナイフ登場。
歯医者の諸々の音ほど、嫌いなものはない。
キーンと耳を劈くようで、心も痛い。

暫くして、ミシミシと音がする。

半分に切り終わって、
いよいよ根っこを抜いているらしい。

ミシミシ、ミシミシ。

「まだここに痛いのにぃ…」
という歯の叫びにも聞こえた。
ごめんよ。悪かったよ。

どうやら上手く抜けたようだ。
縫わずに済んだ。

「はい、ではお大事に。」と握手したら
あっという間に次の患者へ向かって
先生は消えていった。


抜けた歯をじっと見る。
きれいに切られて、側面図のように
よく見える。根っこの先に、なるほど
大きな塊がある。お前さんが悪の根源か。

少し躊躇したが、持って帰っていいかと尋ねた。
少し微妙な反応だったが、いいですよと
ティッシュペーパーに包んでくれた。

抜歯後の注意という紙をもらい、
3件目の歯医者を後にした。


翌々日、また日本人歯医者さんを訪ねた。
傷口の消毒と、全部の歯の総点検だ。
今回のような事はもう2度と起こしたくない。
ところが予想に反して、他の虫歯はないとのこと。
ほっと一息。

また何度もお礼を言って、家路についた。


暫くは、左に傾いて食べたり飲んだり
していたが、大分回復中。
早くよくなりますように。

明日は、予約通り村の歯医者さんへ
行って、消毒してもらおう。
抜くはずの歯がもう無くて、
歯医者さん、拍子ぬけするだろうな。



本当に今回のことは、
不幸中の幸いとしか言い様がない。
あのまま、何となく過ごしていたら
どうなっていたのかと想像するだけで
寒気がする。歯の神経を抜くというのも
考え物だなとも、正に痛感(!)した。


みなさんも、どうぞお気をつけて。
病気はやはり早期発見、即対応が一番。



今日の言葉*
「棒には二つの端がある」
(ロシアの諺)
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by sachiolin | 2008-05-04 09:30 | Trackback | Comments(0)