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わたしの心の風景メモ。 


by sachiolin
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観1■沙羅双樹

この前、偶然、テレビで日本の映画を観た。
ドイツのテレビは、押し並べてツマラナイが、
「arte」というチャンネルは、好き。
ま、フランスのチャンネルなので、さすが
宣伝もオシャレ、目のつけどころがオシャレ。
放映している番組がオシャレ、色がオシャレ。

そんなオシャレなチャンネルに取り上げられていたのが
河瀬直美監督の「沙羅双樹」という映画。
残念ながら、テレビをつけたのが一歩遅くて
始めの何分かは見逃してしまったが、
なかなか不思議な映画だった。
主人公と女の子が、自転車の二人乗りをしている姿やを
手を繋いで走り抜くのを後ろからずーっと追ったり、
古い日本家屋の影や黴臭さを切り取ったり、
庭のトマトやきゅうりをアップでずっと映したり、
兎に角、映像の撮り方が、独特。
視線がちょうど人間の目と同じくらいの高さで、
まるで、そこに自分も存在するような不思議な感じになってくる。
妙にリアルで、妙に懐かしさが湧き出て
一気に日本にワープしてしまったりして。
日本の家屋の不気味さに、ぞぞぞとした。
科白はとても少なく、ぼそぼそとゆっくり話す。
日本のいろいろな「感じ」をぎゅっと上手く濃縮させていると思う。
何気ない表情やことばや日常の中にも、ずっと根底に流れている
深い悲しみや、ただならぬ喪失感といったものが伝わってきて
極度の緊張感をもって、作品を大きくつなげている。
話があるようなないような、ことばがあるようなないような…
でも、全ての人物やことばや絵や景色がつながりあって
生きているんだなというのが、結局それなんだろうな
というのが、私の感じたところ。「意味づけ」をしようと
意図的になっていないのが、逆に大きく意味を持っていて、
それがいいなと思った。そのままのむき出しのメッセージというか。

最後は、出産のシーン。
ものすごくリアルで、気付いたらぼろ泣きしていた。
感動なのか、なんなのか。ただ涙が出た。
子供を産むってこんなに大変で、こんなに素敵なことかと思った。
後で知ったが、この身重の奥さん役の女優が、降板したので
急遽監督みずからが演じたのだという。映画全体でも
彼女の存在というのは、暗い影を落としていて、また
それが光になっている気がする。



インタビュー@イノベーティブワン
このインタビューは面白かった。
他の人のも興味深い。

「一度に全てを理解していただく必要はありません。
というか、制作している段階で、すでに映画は私の想像を
超えたものになってしまっていますから、私自身も理解しきっている
わけではないのです。作品は作家の手を離れて勝手に成長していく。
最初から事細かな状況説明を入れるとそうはなりません。
だから、不自然なセリフで手取り足取りお客さんを導くよりも、
いかにリアリティを持たせて入り込んでもらうかということの方が
重要だと考えています」

共感。
絵でも映画でも音楽でも、ホンモノというのは、そういうものだと思う。
それ自体のもつ力を潰してはいけなくて、依存してもいけない。
だから、演奏家という立場は難しいし、その点に特に注意が必要だ。
作者本人でもなく、媒体なのだ。
子供を持ったことがないから分からないけれど、
きっと、自分の奏でる音や音楽は、自分の子供みたいなものなのかもなぁ。
親離れも、子離れも大事だし、スタンスを上手くとるのが必要。
自分と子供をイコールで結んでしまってはいけなくて、
それぞれにそれぞれの道がある。かわいい音には旅をさせよ。
すごい演奏家の奏でる音楽というのが、自由にとらわれずに、
羽ばたいて遊んでいるように聞こえるのも、そのへんのところなのかもしれない。



今日の言葉*
「私の中では、誰かにスポットを当てたものにすると制作する
意味がなくなるんです。そうではなくて、平凡な登場人物の全員が
そこで影響しあって存在している。そのことを確認するものにしたいんです。

『自分』というものの存在を確かめたい。
それが私の全作品の根底にある思いです 」
(河瀬直美)


観1■沙羅双樹_c0110074_743914.jpg
by sachiolin | 2007-04-01 07:55 | 観■Film