2015年 08月 17日
森と少女
花はただそこで静かにおだやかに咲いていた。その花を知りたくて、さわりたくて、入ってしまった少女は、森の憤りにふれた。足をすくめ、後ずさりする。よく見ると周りにもたくさんの花が咲いていた。あの時は確かに一輪だったのに、花は、群れをなしていた。知らぬ間に花を踏みつけていた。どれほどの時間が経っていたのだろう。少女は動けなくなってしまった。いや、ずっと動いていなかったのかもしれない。
今はいつだろう。
森にまだ立ちすくんでいた。このまま立ちすくんでいたら、まるで自分が木になってしまうようだった。ふと空を見上げると、太陽が木の間から仄暗く光っていた。月のようだった。森は、少しおだやかになり、風が吹いた。少女は森から静かに去った。森から出ると、体のなかがムズムズした。はじめのうちは何が起きているかわからなかったけれど、どうやら体のなかで、種が芽を出しはじめていた。あの野原で、とても美味しそうな木の実が落ちていて、その実を拾って口にしたのを少女は思い出した。道を駆け出した。そのお腹のなかで静かに花が咲いた。
by sachiolin
| 2015-08-17 19:50
| 綴 ~~