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わたしの心の風景メモ。 


by sachiolin
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聴●82歳のピアニスト

今晩は、82歳のピアニストの演奏会に行った。

前半はシューマン。
後半はショパン。

ピアノリサイタル、というのは、実は
今までで、一度くらいしか行ったことがない。

ピアノという、大きな黒いものに向かって、
舞台の上で、ひとりの人間がひたすら
音を奏でるという世界には、異様なものさえ感じてしまう。
すごく孤独で、すごく静かな深い闘いのような。
ヴァイオリンという楽器の持つキャラクターと
ピアノのそれとは随分と違うものだ。

私にとって、ピアノは、水面を思い起こさせる。
夜の林の中の静かな湖。波紋が伝わる。月が輝いている。
春の小川。魚が水しぶきを上げて、水を揺らす。
そういう水のイメージがする。

私にとって、ヴァイオリンは、空と風を思い起こさせる。
広い草原と広い空。空の上の方で鳥が旋回している。
鳥のように、風のように、空を自由にかけめぐる。
そういうイメージがする。ドイツの師匠の音は、
勢いのあるつむじ風のようだった。大好きな音。懐かしい。
弓の動きは、呼吸と似ている。息を吹きかけて命が芽吹く。



82歳のデームスさんは、ものすごく美しい音を奏でた。

特に、ショパンの子守唄が素晴らしかった。
瑞々しくて。キラキラしていて。不思議な死の香りがするような。
眠りというのはある意味、死だから、聴いていて連れて行かれそうだった。
なんて美しい曲なのだろう。聴きながら、なぜか桜が散る様子がふと
思い浮かんだ。その下で、赤ちゃんを抱く女性がやさしく微笑んでいる。
生を抱きながら、死が舞っていく。時間がとまっているような流れている
ような、そういう不思議な空間に包まれた。




続く、舟歌もすばらしかった。
水面がキラキラと光るのがみえるようだった。
光と影のなかで、たゆたう感じがたまらなかった。
82歳という年齢でしか表現できないような色と影があった



アンコールも3,4曲弾いた。
休憩をはさんだものの、2時間たっぷり。

すごいなぁ。


色々考えてしまった。

自分が80を過ぎたときに、これほど
音楽ときちんと向かえているのだろうか。
つまり、自分ときちんと向かえているのだろうか。

すごくそれは、根気と我慢と努力と勇気が要ることだ。


あと、どれくらい生きられるのかは分からないけれど、
ここのところ、自分からすこし逃げていたのだと、
82歳の丸まった背中と、繊細な指先が気づかせてくれた。


がんばるよ、デームスさん。
がんばるんだよ、自分。










今日の言葉*

「視界が曇っていても、覚悟を決めた瞬間、くっきりと晴れ渡るという経験は、誰にでも一度や二度はあると思う。視界を曇らせている原因は、外的環境ではなく、きっと自分の内側の濁りなんだろう。いろいろなことを知り、考えて、分別臭くなることは避けられなくても、畢竟、一度限りの人生。 」

(佐伯剛さん)
by sachiolin | 2010-10-27 00:53 | 聴●