人気ブログランキング | 話題のタグを見る

sachiolin.exblog.jp

わたしの心の風景メモ。 


by sachiolin
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

読◇よしもとばなな「ハゴロモ」

ちと旅に出てきた。北の方。
海の香りがふわっとするくらい北の方。
空の色も違うし、人の雰囲気も違った。
自転車に乗る人たちが、やたらと颯爽としていて、
その街の風景に見事にマッチしていた。

はたと目が覚めてしまった。
時計をみたら早朝の4時半だった。
のどが痛い。少し寒気がする。
これは危険だと思い、うがいを入念にして
タオルを首に巻いて、水を飲んで、ベットに戻った。









変に目が冴えてしまった。その部屋の雰囲気は
ばっちりだった。広くて内装もきれいで、全てが完璧だった。
でも、全てがかちっとうまく行き過ぎてて、それが
何か私を居心地悪くした。眠ることは大好きなのに、
どこででも眠れはしない自分を少し嘆いた。
電車でも飛行機でも、なかなか眠れない私は、
おやすみ・・・と言った3秒後にどこでも眠れる友人を
羨ましく思ったりした。


眠りたいのに眠れなくて、もごもごしていて、
よしもとばななの「ハゴロモ」に自然と手がのびた。
吸い寄せられるように、その世界にあっという間に入り込んだ。
涙が流れて、何度も鳥肌が立った。
ふと窓の方を眺めると、白いレースのカーテンが
青白くぼうっと光って、その上の落ち葉模様のカーテンが
群青色に透けて、静かに呼吸していた。とても美しかった。
夜明けが近いようだった。そのカーテンの光の揺らめきは、
あまりに今読んでいる世界の空気と似ていて、また鳥肌が立った。

書いている人の手を離れて、勝手に物語が進行しているのが
読みながらよく分かった。その世界にするすると引き込まれた。

こうして北の方の不思議な空気の街にきて
今この夜が終わろうとしている群青色の世界の中で
このお話を読んでいることは、何か不思議な縁を感じた。
タイミングも空気も何もかもぴったりだった。

水の流れ、時の流れ、透明な死、柔らかい生、
なんてことのないけど積ってしまうとなんてことのある悲しさ、
ゆっくりと流れ着くこと、やさしさに包まれること、
夢と現実の微妙な境界線、人と人の繋がり方、因縁。

何もかも今の自分にぴったりだった。

読み終わったあと、白くて柔らかくて温度のある
大きなハゴロモに、包まれているようになって、
そのまま目を閉じて優しい眠りについた。


あとがきにこうあった。

「もしも自分がほんとうに弱っていて、でもそれが病気や
事故など命に関わることではなくって、そんなことでこんなに
弱っている自分も情けない・・・という気持ちのときにこんな小説を
だれかが書いてくれたらいいな、と再読して人ごとのように思った。
そういう小説だと思う。弱っているときにしか価値がないともいえるが、
弱っているときにじんわりとしみてくる気がする。」


げ、と思った。これでは、あなたは弱っているでしょう、と
明白に言われたようなものだった。こんなにもじんわりと
しみている私は、どうなのだろうと思った。


今の生活がこのまま続くはずはないと
心のどこかで感じながら、日々の生活が
私を追い越して、いつも一歩半くらい前を歩いている。
と、書くと不倫でもしているようだが、そうではない。

「今やりたいこと、今しかできないこと」を夢中で追いかけてきたら、
いつの間にかこんなところに流れ着いていた。
そしてその流れは今も、この瞬間もとまらずに淡々と流れている。
始めはちょっとだけだった歪みが、どんどん大きくなっているのを
最近切実に感じる。今の生活がこのまま続くはずはない。
それはまるで、海の上に浮かぶ氷に一所懸命
花を咲かしているようで、その花は、大海原を
見つめながら、ふわふわと揺れていた。


この前短期間日本に滞在して、ドイツに戻っていたとき、
私は自分の影を日本に忘れてきたような感じだった。
自分は今ここにいるはずなのに、半透明だった。
影が到着するまでは2週間くらいかかった。
こんなことは昔はなかった。その、影が戻ってくるまでの時間は、
これからどんどんもっと長くかかるようになるのだろうと思うと、
少し目まいがした。戻るべきところはどこなのだろう、
HOMEとは何なのだろうと、少し遅く戻ってきた自分の影を見つめた。


やっぱり温かい土の中に根を張って、花を育てたい。
家族にすぐに会える場所で。温かい光のある部屋で。

ゆっくりでいいから、自分のHOMEをみつけていきたい。
ゆっくりでいいから、自分の大切なものをみつけていきたい。


今の私にはまだ、自分のことも人のことも愛するというのは難しいから、
「いとしい」と感じることを、大切にしていこうと。

いとしい=いとおしい=いと、惜しい。

惜しいといえば、自分てやつは、ホントに惜しいやつだ。
いつも、惜しいところで失敗して、惜しいところで引き返す。
あと、もうちょっとなのに、なんでそこで踏ん張らないかと
今日も惜しい自分にぷりぷり怒ってた。

いと、惜しい。


ゆっくりでいいから、大きな流れに、身を委ねて
ゆっくりでいいから、少しずつ変わっていこう。

そう思える小説だった。
ありがとう、ばななさん。



今日の言葉*
「人の、意図しない優しさは、さりげない言葉の数々は、
羽衣なのだと私は思った。いつのまにかふわっと包まれ、
今まで自分をしばっていた重く苦しい重力から
ふいに解き放たれ、魂が宙に気持ちよく浮いている。」
(よしもとばなな「ハゴロモ」より)
by sachiolin | 2009-06-25 07:16 | 読◇Fiktion